JTC企業のDX推進:Excel表による判断の高速化

企業における判断は、大きく全社的、部門単位、個人単位の3つに分類できる。全社的な判断は経営陣が行い、戦略の方向性や企業の存続に関わる重要な決定を下す。部門単位の判断は、特定の業務やプロジェクトに関するものが中心となり、個人単位の判断は日々の業務遂行に関わる細かな意思決定を指す。

近年、AIを活用した意思決定の精度や生産性の向上が注目されている。全社的な判断では、経営戦略のシミュレーションや市場分析をAIと「壁打ち」することで、よりデータに基づいた合理的かつ俯瞰的、偏りの少ない意思決定が話題になる。また、営業やカスタマーサービス分野では、顧客からの問い合わせをAIが一次対応し、エスカレーションが必要かどうかを判断するエージェント化の事例が増えている。

部門単位の判断の難しさ

一方で、部門単位の判断については、AI活用の議論が進みにくい傾向がある。その背景には、コンサルティング会社やベンチャー企業においては、優秀な個人が集まっているため部門間調整の必要性が低い、調整を嫌ってコンサルティングファームに転職する人がいる、といった構造がある。とはいえ、伝統的な日本企業では、部門間の調整が不可欠であり、それが判断の複雑性を増している。

では、部門間の調整とは何か。経営とは「人・もの・カネ」の配分であるが、部門レベルで見れば、当座使える人、もの、カネは固定であり、部門運営は「時間配分」と同義になる。例えば、1人当たり1日の実作業時間が5時間とすると、50時間分の作業が与えられれば、1人で10日かかる。こうした作業の割り振りをどのように調整するかが、部門単位の経営である。

日本企業特有の「時間確保ゲーム」

企業内では、時間を捻出するための駆け引きが日常的に行われている。例えば、「取引先と行ったことにして焼き肉を奢るからこの件を優先的に対応してくれないか」「この稟議書は多少問題があるが、見逃す代わりに資料作成を手伝ってほしい」といった、社内接待、個人間の取引を経験したことがある人も多いだろう。

また、社内では立場の強弱が影響を及ぼす。例えば、東大卒で将来の出世が約束されている社員には、面倒な仕事が振られないことがある。このような状況が続くと、「課長は特定の社員にだけ甘い」といった不満が生まれ、組織のモラル低下につながる。

この結果、多くの日本企業では、業務の担当者を明確にするための「判断のExcel表」が自然発生する。たとえば、家電メーカーでは、Amazonのカスタマーレビューに対する対応を明確にするため、起案部が対応の要否を判断し、必要なら当該部門が具体的な対応者を割り当てる。このように、部門間の調整が可視化されることで、誰がどの業務にどれだけの時間を割くのかが明確になる。どの仕事を誰が担当するか、こうした表で可視化することで業量の多寡についての不平不満を封じ込めたいのだ。

生成AIがもたらす判断の効率化

このような部門間の調整は、生成AIとExcelの組み合わせによって大きく変わる可能性がある。例えば、

あなたは洗濯機メーカーのカスタマーサービス担当です。コメントを読み、安全上の懸念があり、追加の連絡が必要か不要かを判断せよ。回答は要または不要のみ出力、説明不要とする。

作業要否の判断プロンプトの数式は「=BB.ASK(CONCAT(“あなたは洗濯機メーカーのカスタマーサービス担当です。コメントを読み、安全上の懸念があり、追加の連絡が必要か不要かを判断せよ。回答は要または不要のみ出力、説明不要とする。:”,[@コメント]))」です

といったプロンプトを用いることで、AIがレビュー対応の一次判断を行い、起案部の作業時間を削減できる。現在、多くの大手メーカー(JTC:Japanese Traditional (Big, Old) Companyは、旧態依然とした日本企業を揶揄するネットスラング)には毎日数百件のレビューを読む担当者が実在するが、AIの活用によってこの業務負担は大幅に軽減できる。

画像
AD列にコメントを読んで判断するプロンプトを埋め込んだ例

AIを適切に活用することで、全社的な意思決定だけでなく、部門単位の業務調整も効率化できる時代が到来している。企業がこの変化をどのように受け入れ、活用するかが、今後の競争力の鍵となるだろう。

判断のAI化

生成AIツール for Excelは、Excel用の無料アドインである。BB.ASK(<プロンプト>)のように、関数にプロンプトを指定することで、OpenAI、Google、アンソロピックのサーバーにリクエストを送信し、応答を関数の処理結果として取得する。APIの利用料金はかかるが、アドインそのものは無料だ。

生成AIは、各社のチャットサービスを月額20ドル(約3000円)程度のサブスクリプションで利用することが前提のように紹介され、APIのコストが実際にどれだけかかるのかは従量料金なのでなかなか紹介されない。著者の事例でいえば、Excelで数百行、数千行のデータを扱っている限り、月額料金は1000円もかからない。10万行単位のテキストをかなりしつこく処理して、やっと1万円単位の請求になる。チャットサービスで10万行単位のデータを処理するのは実際には不可能であり、Excel×APIで1万円程度の出費で人間に換算すれば数百万円ぶんの仕事量が数分で片付くため、API利用が高い、と感じたことはない。

判断精度を高めるプロンプトエンジニアリング

あるレビューに個別対応が必要かどうかの精度を高めるにはプロンプトエンジニアリングが必要だ。たとえば、

大物を洗うと異音がします。問題ありませんよね。

というコメントは、人間が読めば開発部門で調べたほうがよさそうだとわかる。しかし、

コメントを読み連絡が必要か不要かを判断せよ。回答は要または不要のみ出力、説明不要とする。

数式としては「=BB.ASK(CONCAT(“コメントを読み連絡が必要か不要かを判断せよ。回答は要または不要のみ出力、説明不要とする。:”,[@コメント]))」です

というプロンプトでは応答は「不要」になる。上で紹介した「あなたは洗濯機メーカーのカスタマーサービス担当です。コメントを読み、安全上の懸念があり、追加の連絡が必要か不要かを判断せよ。回答は要または不要のみ出力、説明不要とする。」というプロンプトのように、役割と観点を含めることで、判断精度は飛躍的に向上するし、判断方針を切り替えられる。

AIで誰かのポジションを奪うな

JTCには、社内失業中の高給取りが大勢いる。70歳を超えた社長の記者会見をみると、社会にポジションのない老人が社内にポジションを作るために不適切な慣行を常態化させたのではないかと多くのサラリーマンは感じ取ったはずだ。こういう役職は究極の社内失業者向けポジションであり、だからこそ軽んじてはいけない。従来からExcel表で担当者の割り当てをしていたり、カスタマーレビューを読んで一次対応をしているポジションがある場合、「APIでレビューを取得してAIで判断させれば、二人分の人件費が浮きます」といった提案は、「AIの判断に抜け漏れがあり、重大事故を未然に防げなかったときの責任はDX推進部が取るのか」といった強い反発を招く。最近はコンプライアンス対策室への通報、SNSでの密告など、反攻手段が多くある。

ではどうすればいいのか。改革は機能的アプローチで進めるべきだ。現在、担当者がおらず何も進んでいない。しかし、顧客の安全にとって重要、会社のリスクを軽減できるような領域を見つけて、そこにAIによる判断を持ち込むのがよい。そもそも現在担当者がいないのであれば、「誰も判断する人がいないので重大事故を未然に防げない可能性がある。ここをDX化してリスクを減らす」という目標が錦の御旗になる。

生成AI活用やExcel業務の効率化についてのご相談は、ぜひ ビジー・ビー にお任せください!

当社では、生成AIを活用したコメントデータ分析や、Excel業務の効率化を支援するツールやソリューションを提供しています。データ活用のプロフェッショナルが、貴社のニーズに合わせた最適な方法をご提案します。

ご質問、ご相談は、以下のフォームからお問い合わせください。

本記事は、[データ分析ラボ]の許諾を得て転載しています。この記事以外にも生成AI・Excel・データ分析など多くの興味深い記事を掲載しています。ぜひ[データ分析ラボ]を訪れて、幅広い情報をお楽しみください。[https://note.com/dataanalysislabo/]


BusyBeeをもっと見る

購読すると最新の投稿がメールで送信されます。

sanofumitakaのアバター

About the author

BusyBeeをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む